少し街外れにある一軒の家へと足を運んだ。
家の周りには、数名の大人たちがいた。
「妹さん? おじさんたちね、妹さんが心配で助けに来たんだよ。だから、家の中を見せてもらえないかな〜?」
それを経験したことのある僕は瞬時に気がついた。
あれは、報道陣だ。
彼らは被害者家族を心配してなどいない。報道のネタをおさえて閲覧数を稼ぎ、広告収入を得るためなら、手段を選ばない人がほとんどだ。
連続殺人事件。それだけでも人の目を引く。もはや恰好の餌だ。
鉱石の魔導師の情報を流せばどうなるか。 それこそ大スクープだろう。ただ、これは僕が必死に集めた情報だ。渡すわけにはいかない。
それ以前に、妻を侮辱した人達に、話すことなど何もない。
しかし、このまま放っておけば、この家の被害者家族も、居場所を失ってしまうだろう。
「雷鳴よ。轟き荒め!」
男の怒号のような声が聞こえ、無から有が現れた。
雷に打たれた様に髪を逆立てる茶髪の憲兵。右足を踏み締めながら怒りを落とす。
一通の紫電が、報道陣の頭上を駆ける。
「おい、テメェら、ここはこの家の敷地内だ。出ていかねえなら務所にぶち込むぞ!不法侵入野郎ども!!!」
「うわ、ちっ、憲兵……。しかも星座かよ」
もう少し抵抗されるかと思ったが、おそらく高い機材をもっているのだろう。壊れる危険を恐れてか、報道陣はすぐさま離れていった。
この憲兵さんが、電気を扱える星座で助かったと安堵する。
「先輩の方が、ぶち込まれてそうな人相ですけれどね」
黒いマスクをつけた長身の憲兵がそう言うと、茶髪の憲兵は、怒りの矛先を彼に変えた。
どうやら、二人はバディらしい。
「お前のお望み通り、傷害罪で入ってやろうか? 歯食いしばれ」
「あはは〜 やめてくださいよ〜」
この二人は、ツララちゃんが呼び出した憲兵だ。ただ、憲兵を呼ぶだけなら一般人でもできる。先程言っていた職権濫用というのはどういうことだろう。
もしかしてという、ひとつの予想はあった。
「あの、ありがとうございました」
ツララちゃんはそんな2人の憲兵にお辞儀をし、丁寧にお礼を言う。
「いえいえ!とんでもございません!星団の方のお役に立てて光栄です!」
茶髪の憲兵はそういうと、明らかに年下である少女に対して軍帽を脱ぎ、頭を下げた。
「……星団」
先程のもしかして、が的中していた。
僕がそう呟くと、長身の憲兵が端末を起動させ、情報を見せてくれる。
「ええ、彼女はツララ・アスティリル。星団所属の星座ですね」
端末に映し出された情報には、確かにツララちゃんが登録されている。氷霧の魔導師と。
星団所属の星座。それになるためには厳しい認定試験を突破しなければならないと、弟に聞いたことがある。
「ちなみにうちの先輩もご覧の通り星座ですが、認定試験の一次すら毎年落ちていますね」
「おい新人。テメェなんで知ってやがる」
「情報収集は基本ですよ〜。 固有名は紫電か稲妻をご希望ですね?」
「な、なっ、なんでそんなことまで!?」
茶髪の憲兵は、耳まで顔を真っ赤にしながら、うろたえる。
先輩の心に聞いたんですよ〜という冗談を言いながら、長身の憲兵さんはケラケラと笑っていた。
「さて、私達はこのあたりで。この後は他のお宅の報道者を追い払いに行きますね」
「すみません、憲兵さん。本当にありがとうございます」
憲兵さんは僕の家にも行ってくれるらしい。夕方には帰れるだろうとのことだった。
あの家には彼女との思い出が沢山ある。報道陣がいないのであれば、それらをまずは回収したい。引っ越すか留まるかは、後で考えよう。
「いえいえ、民間のことは我々憲兵の仕事ですから。ほら、先輩~。もう行きますよ~」
長身の憲兵はそう言うと、茶髪の憲兵を引きずって行こうとする。
僕と長身の憲兵さんが話している間、茶髪の憲兵さんはツララちゃんに食いついていた。 それはもう凄い勢いで。目を輝かせながら。
「お前っ! まだ氷霧さんと話が!」
「はいはい。星団オタクも大概にしてくださいね。それほど憧れているのなら、彼女たちの邪魔になることはしないほうがファンというものですよ」
「ぐっ……」
正論を叩きつけられ、茶髪の憲兵さんはぐうの音も出ないようだった。渋々、弱々しい挨拶をして帰っていこうとする。
長身の憲兵さんは見かねたのか、ハア……と一息ついてツララちゃんに問いかける。
「魔導師さん。すみませんが、最後に握手だけよろしいでしょうか。先輩、そうしないとこのあと抜け殻になりそうで」
「あ、はい。大丈夫ですが、私はそんな大層な者では……」
その会話を聞いていた茶髪の憲兵さんは、瞳をどんどん輝かせる。
いいんですか、とツララちゃんに恐る恐る問いかけ、笑顔を返されると、手袋を勢いよく外す。
握手を終えると、憲兵さんはとても満足した表情を浮かべ。両手を拝むように天へと掲げていた。幸せそうで何よりだね。
「僭越ながら、私もよろしいでしょうか?」
長身の憲兵さんは、あまり星座に興味が無いのかと思っていたけれど、最後には同様に握手を求めていた。やっぱり憧れを持つ人が多いのだろう。
その後、二人の憲兵さんは戻っていった。先輩の憲兵は、機嫌よく鼻歌交えながら。
「ツララちゃん、大変だね」
「いえ、むしろ嬉しいですよ」
ラゴが存在しなければ、星座は本来「異質な力を持つ、恐れるべき人間」。だから排除の対象ではなく、こうして憧れてもらえるのは嬉しいことだと彼女はいう。
「それよりも……タースさん。あの……」
不意に、ツララちゃんが何かを言いたそうな顔で僕を呼んだ。
しかしその声は、扉が開かれる音でかき消される。
先ほどまで開くことのなかった家の扉が、ひとりで開いたのだ。
僕は思わず、その方向を見る。
「ツララのお姉ちゃん」
戸を開けたのは、初等部低学年くらいの茶髪の女の子だった。
目を潤わせて、今にも泣きだしそうだ。
ツララちゃんは慌てて少女の元へ走り、大丈夫ですかと声をかけながら抱きしめた。
少しすると、少女は落ち着いたようだ。やや赤くなった目をこすり、スンスンと鼻をすすっている。
「おじさん、だあれ?」
少女は僕に気が付いたのか、こちらを見ながらそう聞いてくる。
おじさん。
確かにこんな小さな子からしたら、僕は間違いなくおじさんだろうけれど、実際に言われるとダメージが大きい。
「お邪魔してごめんね。僕はタース。その、なんというか」
「エリスちゃん。タースさんは私の仲間です。あの部屋をまた調べさせてもらえますか?」
「うん、ツララお姉ちゃんのお友達ならいいよ」
完全に不審者扱いをされていた僕に、ツララちゃんが助け舟を出してくれた。
納得したのか、少女は僕を中に案内してくれた。
彼女の名前はエリス。3番目の事件の第一発見者で、被害者の妹だそうだ。
事故で両親を早くに亡くし、姉妹二人で生きてきた。ここ数日は星団による保護として、ツララちゃんが赴いているらしい。
「わたし、こっちにいるね」
エリスちゃんは、とある部屋に案内してくれた。彼女はどうやら、この先にあるものをあまり見たくないらしく、すぐにリビングへ戻っていった。
開かれた扉の向こうに、それはあった。
神秘的な青色の結晶。ニュースで見たことがある。確かにこれは、リトスの鉱石とよく似ている。とても美しいはずなのに、それが逆に不気味さを感じさせる。
なぜなら結晶の中に、一人の少女がいるのだから
歳はツララちゃんと同じぐらいだろうか。エリスちゃんに良く似ている。
目を閉じて、まるで眠ってるようだ。もちろん呼吸はしていない。
リトスは、このような状態が、街全体に及んだというのだろうか。それは事件というよりも、もはや厄災という言葉が正しいだろう。
「あれ、この子、どこかで」
「思い出しましたか?」
連続殺人ならば、なにかアイリースと共通点があるかもしれない。どこかで見たことがある気がしたが、はっきりとは分からなかった。同じ街に住んでいるのだから、例えばどこかですれ違っていたとか、その程度かもしれない。
「心配しなくても、そのうち思い出しますよ」
ツララちゃんはそう言ってくれたけれど、何も進展がなく、歯痒い思いをする。
しばらくして、リビングへと戻った。
すると、エリスちゃんが戻ってきた僕のことをじっと見つめてくる。やっぱり不審がられているのかもしれない。
「おじさん、何でそんなにボロボロなの?」
「あ、ごめんね。汚い格好で家に上がってしまって」
「それはいいの。これ、使っていいから、洗面所でキレイキレイしていいよ」
そういうと、エリスちゃんはタオルを渡してくれた。自分が辛いときに他人を気遣えるなんて、なんていい子なんだろう。と感動すら覚える。
お礼を言うと、自信のある顔でうん。と返事をされた。
お姉さんの真似をして、色々と世話を焼きたい年頃なのかもしれない。その様子はとても愛らしく感じた。
顔を洗って髪を整える。
改めて見ると、ひどく疲れた顔をしている。そういえば何日も、ベッドで横になっていない。気が付いたら公園やベンチで朝を迎えていた。
よく職質を受けなかったものだと思ったが、この辺りはバーも多い。きっとよくいる酔っ払いだと思われたのだろう。
今日は帰ったら、久しぶりに横になって休もうと思った。
最後には洗面台をタオルで拭き上げ、髪の毛もしっかりととる。こうして綺麗にしておかないと、うちではこっぴどく怒られるから。
リビングへ戻ると、ツララちゃんとエリスちゃんが遊んでいた。
どうやら絵を描いているようだ。
「ツララお姉ちゃん、これ何?」
「アレックスですよ」
ツララちゃんの描いているアレックスというものは、ラゴなのだろうか。かろうじて4本足であることはわかるが、皮膚が爛れたようなその異形は、今朝出会った化け物の仲間にしか見えない。
エリスちゃんが小声で「こんなのじゃない」と抗議すると、ツララちゃんは首をかしげていた。少し凛々しく描きすぎたかもしれないと反省をしているようだけれど、問題はそこでないような気がする。
「アレックスっていうのはなに?」
「ワンちゃん。ちょっと前にいなくなっちゃったの」
エリスちゃんが指差した先には、写真が飾ってあった。そこにはエリスちゃんとお姉さん。そして白くてエリスちゃんの背丈と同じくらいの大きな犬が写っている。
どうやらアレックスというのは、ペットのことらしい。
もう一度、描かれた絵と交互に見比べるが、それは似ても似つかないというより、同じ生物なのかも怪しかった。妙に動き出しそうな雰囲気が、不気味さを加速させている。
エリスちゃんにとって、大事な家族が1人と1匹、同時期にいなくなってしまった不安は相当だろう。
ツララちゃんは恐らく、その寂しさを埋めるために描いてあげたのだと思う。やっぱり優しい子だ。出来上がった作品に対して、エリスちゃんがやや恐怖の表情を浮かべているのは置いておいて。
「僕も描いていいかな」
ペンを借りて、その横にささっと描いていく。簡単なものであれば、そこまで時間はかからなかった。
「アレックスだー!」
出来上がったそれを見ると、エリスちゃんはとても喜んだ。
多少デフォルメしているけれど、写真と比べてもなかなかにいい出来だと思う。
ツララちゃんも「タースさんのアレックスは可愛い系ですね。なるほど、こう描くと……。勉強になります」と、なにかブツブツ言いながらメモをしていた。
「早く戻ってくるといいね」
「うん。タースおじさん、ありがとう!」
絵を大事そうに抱えながら、エリスちゃんはニッコリと笑った。
初めて笑顔をみせてくれた。それがとても嬉しかった。
その後は夕方まで、お邪魔させてもらった。代わりにエリスちゃんと少し遊ばせてもらう。
数時間経つと、エリスちゃんは疲れたのか寝てしまった。ツララちゃんが毛布を持ってきてあげて、優しくかけてあげている。
僕もヘトヘトになりながらも、自分に子供がいたら、こんな感じだったのだろうと思いながら、ソファーに座って少し休む。
「あの……タースさん」
ツララちゃんに声を掛けられる。おそらく先程、家の前で言おうとしていたことだろうと思った。内容も、なんとなく予想がついている。
「ツララちゃん、ごめんね」
僕がそういうと、ツララちゃんは驚いたように「え?」と返事をする。
正直、僕は星団は何もしてくれないと勝手に思っていた。それを伝えると、ツララちゃんは首を横に振った。
「いえ、謝らなければならないのは私達の方です」
鉱石の魔導師が引き起こした事件。これを公表すれば、大きな混乱を招く。そのために星団は情報公開を制限している。初めに会った時に星団の者だと明かさなかったのは、情報がどれくらい漏れているのかを探るためだったそうだ。
「すみません。騙すようなことをしてしまって」
「いや、そんな。仕方ないよ」
ラゴは、人の心から生まれる。絶望や恐怖、不安、嫉妬、さまざまな負の感情によって、心が、アスタが欠ける。そうして、その修復のために、他人の星を奪ってしまったものがラゴだ。理性を失い、アスタを奪う化け物になる。
星団の役目は、ラゴを討伐するだけじゃない。混乱を減らし、人々の心を守ることは、ラゴを生み出さないために必要なことなんだ。
悲しい思いをする人を、一人でも減らすために。
しばらくすると、先程の憲兵さんから連絡が来た。
ツララちゃんが一応家まで護衛してくれるそうだ。使わせてもらったものを片付けて、帰りの支度をする。
「タースおじちゃん、帰っちゃうの?」
物音で起こしてしまったのか、エリスちゃんが眠たそうな顔をこすり、身体を起こす。
「うん、お邪魔しました。タオルもありがとうね」
「うん、おじさんも、アレックスありがとう」
あの絵を相当気に入ってくれたらしい。
「また遊びに来てね」
「うん。そうだね。落ち着いたらまたくるね」
そんな会話をしていると、空気が重くなったのを感じた。その主は恐らくツララちゃんだ。
「エリスちゃん。孤児院に送られるんだよね」
家までの岐路で、そう聞いてみた。
保護者がいなくなった彼女が、孤児院へ送られるということは想像がつく。
そうすれば、もう会うことは難しいだろう。先程の約束は、守れそうにない。
「このままだとそうですね」
幼い少女の前では見せなかった、悲しそうな顔をツララちゃんは浮かべる。
この問題は、星団であったとしてもどうしようもない。
もしなんだけれど、という前置きをして聞いてみる。
「僕が引き取ることはできるのかな」
僕は正直に言って妻を失い、生きる意味がわからなくなってしまった。それならば、せめて誰かの、大人を必要としている子の力になれないだろうか。家族を失った苦しみは、同じ被害者である僕が一番良く知っている。
あんな小さな子に、一人ぼっちの寂しさを感じさせたくなんてない。
「……それは、難しいと思います」
「そっか。そうだよね。色々、戸籍とか権利周りとかあるもんね……」
そんな話をしながら、家を目指して、夕焼けに染まる道を歩いて行く。
もうすぐ日が暮れる。今夜も鉱石の魔導師による犠牲者が出るかもしれない。
___一刻も早く、鉱石の魔導士を……
憲兵さんのお陰で、家の前はとても静かだった。
久しぶりに、玄関の戸を開く。いつもの癖で、ただいまという声が出る。
おかえりを言ってくれる人はもう___。
「おかえりなさい」
背後で、少女がそう返す。
目が合うと、寂しそうな、それでも優しそうな目でツララちゃんは笑った。
張りつめた糸ほど、小さな力で切れてしまうものだ。
その時までは平気だったのに、その瞬間、僕の中の何かがぷつんと切れてしまった。
「ごめ、ごめん。グスッ。しばらく帰ってなかったから、ほ、ほこりかな」
大粒の涙が、フローリングに落ちる。汚れた眼鏡を外し、くたびれたスーツの袖でそれを拭う。
大切な人がいなくなったというのに、僕はまだ一度も泣いていなかった。
頭ではわかっていても実感していなかったんだ。
____彼女はもう、いないんだ。
どのくらい経っただろうか。気がつくとリビングのソファーで、眠っていた。
ずっと外を放浪していて、疲れが出たんだろう。
ツララちゃんは、窓際で、並べられた写真を眺めていた。
いい写真でしょと声をかけると、気がついたのかこちらに振り返る。
「あ、起きられたんですね。すみません。つい目に入ってしまって」
「いやいや、気にしないで」
アイリースと僕、そして弟の3人が写っている幼少期の写真。中学、高校の卒業式に一緒に撮った写真。そして結婚式の頃の写真。
彼女は、どの写真でもいい笑顔だ。
僕はというと、写真写りが悪く、いつも変な顔をしている。
でも、どの時もとても楽しくて、幸せな日々の一部だった。
僕らの日々を、それからエリスちゃんの家族を奪った鉱石の魔導師。僕は、この罪人を絶対に許さない。
覚悟はすでに決まっていた。
ツララちゃんに、お願いがあると声をかける。
「僕は、鉱石の魔導師を殺したい」
今僕は、自分でも怖いくらいに、冷静だと思う。恐らくもう揺らぐことはないこの決断を、彼女はどう取るだろうか
「それは、間違っていますよ」
「何も間違っていないよ。罪を犯したら、それを償わなきゃいけない」
「はい。そのとおりです」
「復讐は何も生まないって言いたいんだよね。罪人は法か星団で裁くべきって」
そう言われるだろうとは思った。でも、何も生まなくたっていいんだ。
もう僕には、なにもないんだから。
きっと、「貴方を人殺しにはしたくない」優しいこの子なら、そんなことを言うのだろう。
「いいえ?」
思ってもいない返答に、僕は思わす、え? と聞き返してしまった。
「復讐で殺したいと言うのであれば、止めませんよ。もちろん、助力はしませんが」
淡々とそう返された。
それまでの彼女との差に、一瞬戸惑う。
彼女はたしかに、優しい心の持ち主だと思う。しかしそれは必ずしも、善や正義といった行動になるわけではないようだ。
罪には、罰を。それを徹底しているように思う。
加えて、会話の中で僕はなにか違和感を覚えた。どうも話が噛み合わない気がする。
ツララちゃんの顔は真剣だ。僕の問いにふざけて返してるわけでもなさそうだ。
何が間違っているのかを問うと、予想外の返答をされた。
「アイリースさんを殺害した犯人は、鉱石の魔導師ではありません」
僕は一瞬固まってしまった。彼女の言っている言葉の意味が、すぐに飲み込めず、少し遅れてどういうことかを聞いた。
「一旦整理しましょう。まず、この事件には、三人の罪人がいます。A,B,Cとします」
そう言うと、ツララちゃんは資料を広げながら説明をしてくれた。
一件目と二件目の事件を繋いでいたのは、凶器であるナイフだ。
でも、三番目のエリスちゃんのお姉さんは、ラゴの鉤爪のような傷跡があったそうだ。
二件目と三件目を繋いでいたのは、星喰い。つまり二人共アスタを奪われていた。
しかし、一人目の被害者は、アスタを奪われていなかったらしい。
つまりそれから導き出されるのは
Aは殺人鬼。一番目の女性とアイリースを殺害した人間。凶器はナイフ。
Bはラゴ。アイリースとエリスちゃんのお姉さんのアスタを補食した。
「そして、Cが鉱石の魔導師です」
ツララちゃんはそう説明してくれた。
とてもわかり易い説明だったと思う。ただ一つだけ、僕には疑問が残った。
「あれ、BとCは同じじゃないの?」
そう問うと、違いますよと即答された。
今までの説明からだけだと、それを裏付けるようなものはない。
「それも何か証拠があるんだね」
「いえ。証拠といいますか、事実です」
そう言うと、ツララちゃんは胸に手を置き、とても信じられないようなことを口にした。
「私が、鉱石の魔導師ですから」